ヘルシーのツボ ～ 広東カレーは母の味＠江南

薄着な自転車通勤の私は、脚を止めた瞬間にモーレツに寒いのである。
今夜は温かい麺にしようか、それとも酔華カレーにしようか。

そうだ、行ったことの無い富貴楼に行ってみよう、と上海路をゆく。
しかし富貴楼さんは新年会で満員だった。

それではと関帝廟通りから市場通りへ。
木曜なので雲龍さんはお休み。
その向こうの生福園も宴会で満員。
どちらもお客さんが入っていて良い事です。

さて、と通りの向こうに目をやると萬来亭は電気が消えている。
そしてその手前は。

お店の前に来てテレパシーを送ると、おばちゃんが出てきた。
実は江南にはお邪魔したことが無い。
けれどもなぜか店の前を通るといつもおばちゃんと遭遇し、何となく会釈するのであった。

「寒いから早く入り　」
どんな勧誘電話も撃退する私でも、寒さも手伝いおばちゃんが言い終わる前に店に入るのであった。

店内は先客が引けた後で私一人。
ファンヒーターが足元にあり、とても温かい。
クルっと眺め、知ったように焼売とヘルシーカレーを注文。
「好き嫌いは無いかい？野菜は○○と○○と○○があるけれど、どんなサラダが良い？」
とおばちゃんが訊いてくれる。

好き嫌いは無いよ、と伝えると、カウンターの向こうでトントントンと包丁を刻む音が聞こえ始める。
そのリズムはゆったりだ。
テフロンまな板全盛の今、こんな家庭的な音が聴けるなんてとても貴重。
しっかりと脳内レコーディングをする。


ほどなくして登場、ヘルシーカレー。

え？

大きく深めな皿全体に盛りの良いご飯。
そのご飯全体に掛け回されたカレー。
振りかけられた塩が光るセロリときゅうりとレタスのサラダ。

どうやらおばちゃんにはヘルシー＝少量というスイーツ(笑)な考え方では無いらしい。

美味しいものはお腹一杯食べることこそ健康という、メンタルなヘルシーさは時代を二回り先取っているに違いない。

ヨシ、と心して食べ始める。
カレーは玉ねぎと豚肉のみ。
しかしとても美味しい。
ルーのトロ味加減と良い、玉ねぎの火の入れ方と良い、豚肉の下ごしらえ具合と良い、調和具合はお店の年季そのもの。
カレーに夢中になっていたら、しばらくして焼売の登場。
こ、、これは、、。

大きい。

5個で200g越はありそうだ。
こちらも塩がしっかり効いている濃口なお味。
けれども
「ヒマラヤの塩を試してみたよ」
なんて言うだけあって、刺さるような塩からさではない。

写真を撮っていると、
「予約のお客さんのつきだし用に烏賊を揚げたんだけれど、食べてみるかい」
とゲソ揚げのオマケまで。
「私は広東だから、豆板醤で辛めにしたこれは自分じゃあんまり」
と言うその味は、ほんの少しだけピリ辛。

正月のおせちの話しをしたら、おばちゃんの作る広東の正月精進料理のお話しをしてくれて、うんうんと聴いていたら、
「もうお腹一杯だろ、食べられないでしょ」
と言いながら、その料理を温め直して出してくれた。
しかも味見程度かと思ったら、しっかりと一皿。

銀杏、落花生、大根、豆腐、クラゲ（茸）類、海草類、筍、クワイ、etc...
10種類以上のそれら全てを乾物から戻して煮た料理。

乾物だからか、海藻類等のためか、少し独特の香りがする。
これは美味しい。
食材こそ、乾物を夫々手間を掛けて戻す中華の技術を用いていたとしても、まさに普遍的な田舎の味。
630円の定食は夜でもOK。
これは客満堂と同じように、一人晩飯に便利。

食べ物の話しや、町内よもやま話しをして、おばちゃんとサシの二時間。
お酒無しで、我ながら良く喋ったものだ（笑。